郵政民営化、世界の事情

郵政民営化は、衆議院を解散してまで実行されようとしている計画。これは日本だけの動きなのでしょうか?

ここでは、世界に目を向けて、諸外国の郵政民営化事情を見てみることにしましょう。

まずはアメリカ。アメリカにもかつて郵便貯金のような制度がありましたが、現在では廃止されています。

郵便事業については事実上の公営で、公営事業体のUSポスタルサービスが運営しています。

何度かこの郵便事業も民営化するという案がありましたが、全国均一のサービスを民間企業が提供するのは不可能という理由で、現在まで実現していません。

ドイツでは郵便と貯金が分割民営化されましたが、郵便事業は現在もドイツポストの独占状態にあります。

日本の郵便貯金と違って、シェアの低いポストバンクをドイツポストが買収し、再び一緒に経営される状態となっています。

郵政民営化の失敗例として有名なのはニュージーランド。かなり早い時期から郵政民営化を実現し、郵便局の統廃合が最も進んでいます。

貯金事業は外資に売却するというドライな対応でしたが、店舗網の縮小によって魅力が薄れて、再びキウイバンクという国営金融機関を設立することになり、元の木阿弥に戻ってしまいました。

こうして世界を見てみると、郵政民営化が成功してバラ色の未来がやってきたという国は意外にないんですね。

郵便局がなくなるって本当?

郵便事業が民営化されると、ある記憶がよみがえります。そうです、国鉄の分割民営化です。

国鉄は日本の発展のために全国に鉄道網を敷き詰めることが目的でしたから、地方の赤字路線であっても鉄道は維持され続けてきました。

ところが、民営化されてJRとなるや、これら不採算路線は整理されて廃線が相次ぎ、全国各地に「鉄道空白地」と呼ばれる地域が生まれてしまいました。

郵便事業が民営化されると、これと同じことが起こるのか?これは誰でも考えることですね。郵政民営化に反対していた勢力もこの点を厳しく追求していました。

郵政民営化後もユニバーサルサービスを維持する、という取り決めが法律にも明記されています。

ユニバーサルサービスというのは全国どこに行っても均一のサービスを受けることが出来る、という意味です。

法律で義務付けられていることから、この約束は守られると思います。そのため急に郵便局が全国でどんどんなくなってしまうということはありません。

ですが、それはあくまでも法律を守るため、筆頭株主である国の意向に従うためという理由からです。

利益を最大化するには不採算部門を整理するのが有効なことには変わりませんから、民営化後の日本郵便株式会社にとっては決して本意ではないということを付け加えておきます。

郵政民営化は本当にバラ色か

郵政民営化に賛成する勢力、特に小泉内閣は郵政民営化政策をバラ色のごとく説明していました。「郵政民営化すれば何とかなる」と言わんばかりです。

政治的には、特殊法人温存の原動力となっていた財政投融資を元から止めることにより、ばら撒き行政に歯止めがかかることが期待されています。

また、現在の郵政公社には26万人もの職員がいますが、これらの職員は全て国家公務員です。

これだけたくさんの公務員の人件費となると、それこそ天文学的な数字になります。

郵政民営化によってこれらの人が公務員ではなく民間企業の社員となると、大幅な国家予算の節約になります。

これは郵政民営化に賛成している人の意見です。これだけ見ていると、郵政民営化はバラ色のように見えますが、そうでない一面も当然あります。

まず、郵便局の統廃合やサービス格差の問題。これについては「郵便局がなくなるって本当?」の項で詳しく述べています。

それに加えて、ゆうちょ銀行が世界最大の銀行として民間企業になるということは、他の銀行と同じように買収の危険にさらされます。

民営化後の当初は国が全株式を保有する事実上の国有企業ですが、最終的には国の持ち株比率は3分の1にする、と定められていますので、外資のハゲタカファンドに買収される可能性はゼロとは言えません。

「郵政民営化すれば全てうまくいく」とは、必ずしも言えない一面があるということもしっかりと覚えておきたいものです。

郵便貯金は使える

日本版金融ビッグバンによって大手銀行の合併が相次いだ結果、ATMネットワークの相互乗り入れなどが進み、以前に比べるとはるかに便利になりました。

ですが、郵便貯金は早い時期から時間外や休日ATM手数料が無料であったり、日本全国に最大のネットワークを有していることなど、すでに一歩リードしている部分がありました。

また郵便振替についても、現在でこそネット銀行などに及びませんが口座間の資金移動については郵便貯金が最も安いという時期もありました。

郵便事業とリンクした機能もあります。例えば、代金引換郵便を発送した場合、先方から受け取った代金を郵便貯金に入金することが出来ます。

宅配便の代金収納サービスを使って銀行の口座に振り込んでもらうのと同じことですが、郵便局の場合だと一括したサービスを受けることが出来ます。

また、預金金利についても郵便局の金利は常に市中銀行よりも若干有利です。

もっとも、ゼロ金利時代の現在では、他にもっと有利な金利で運用できる金融商品はありますが、定額貯金など元本が保証された預金の中ではかなり有利な商品があります。

これは全て郵政民営化される前からあるサービスばかりです。民営化後はこれらのサービスがさらに良くなることが予想されますので、やはり郵便貯金は使えます。

郵便局は何のために民営化?

郵政民営化の話ってものすごく急に進んだような気がしませんか?

小泉内閣が誕生するや否や、当時の小泉首相は最重要政策として郵政民営化を掲げました。

それが国会で否決されるや、小泉首相は衆議院を解散し、あの「郵政選挙」となりました。

結果は小泉チルドレンと呼ばれる一群が誕生するほど、自民党の圧勝。
郵政民営化はアッと言う間に実現することになったのでした。

小泉内閣がここまで郵政民営化にこだわったのはナゼでしょうか?郵政事業のうち、郵便貯金と簡易保険にその答えがあります。郵便貯金は預金残高230兆円を誇るスーパーメガバンクです。

この潤沢な資金が財政投融資と言って、特殊法人などに融資されていたことが天下り先や癒着などの温床になるという批判が根強くありました。

小泉内閣はここにメスを入れることで、構造改革を行おうとしたのです。

政治的にはこのような思惑があるのですが、私たちの生活に対しては、今まで政府系の団体などにしか融資されていなかった潤沢な資金が広く市場に出回るわけですから、金融市場にとってプラスにはたらくと言われています。

つまり、直接的または間接的に資金調達がしやすくなるということですね。